介護職員等処遇改善加算を算定している事業所は、毎年、実績報告書の提出が義務付けられています。令和7年度分の提出期限が迫っていますので、提出期限・提出方法・よくある間違いを整理しました。
提出期限は令和8年7月31日(金)
埼玉県・大阪市・徳島県石井町など、複数の自治体の公式ページで共通して案内されているのが、令和8年7月31日(金)という期限です。
提出期限の原則は「各事業年度における最終の加算の支払いがあった月の翌々月の末日まで」とされています。年度途中で事業を廃止した場合や、処遇改善加算等の算定を終了した場合も、最終入金の翌々月末日までに提出が必要です。実績の有無にかかわらず提出義務がある点にも注意してください。
実績報告書作成のスケジュール、いつから動くべきか
実績報告書は、提出期限の直前に慌てて作る書類ではありません。当社の運営施設では、社内の数字の整理は7月頭から開始し、実際に様式へ記入するのは7月中旬を過ぎてからにしています。理由は、実績報告書の様式が年度途中で差し替えになることがあるためです。早い時期に様式へ記入してしまうと、差し替え後にまた一からやり直しになりかねません。
おすすめのスケジュール感は次の通りです。
①7月上旬:賃金台帳・給与明細等をもとに、賃金改善実績額の集計を始める
②7月中旬〜下旬:その時点で公開されている最新の様式を確認したうえで、記入を開始する
③提出直前:後述のセルフチェックリストで最終確認してから提出する
実績報告書に必要な様式・書類の全体像
実績報告書は1枚の紙ではなく、複数の様式・添付書類で構成されています。主なものは以下の通りです。
提出する様式
・基本情報入力シート:提出先の指定権者名、法人名、担当者情報、対象事業所を記入する入力シート。ここでの入力内容が、別紙様式3-2に自動反映される仕組みになっています
・別紙様式3-2(事業所ごとの加算状況):加算区分、月額賃金改善要件の充足状況、年収440万円以上の職員数などを事業所ごとに記載
・別紙様式3-1(詳細実績報告):加算総額・賃金改善総額・独自の賃金改善の取り組み内容など、金額の詳細を記載
手元に準備しておくべき書類
・賃金台帳・給与明細(令和6年度・令和7年度分)
・提出済みの処遇改善計画書
・就業規則(賃金規程)
・職場環境等要件の取り組みを示す記録(研修実施記録、ICT導入の証憑等)
これらを事前にまとめておくことで、様式への転記作業がスムーズになります。
提出方法は自治体によって異なる
提出方法は全国一律ではなく、自治体ごとに異なります。
例えば埼玉県は「電子申請・届出システムもしくは電子メール」での提出を求めており、Excelファイルのままの提出が必要で、原則として紙媒体での提出は認められていません。一方、徳島県石井町のように「持参もしくは郵送」(封筒に「処遇改善加算実績報告書在中」と朱書き)を求める自治体もあります。必ず、自事業所が指定を受けている都道府県・市区町村の最新の案内を確認してください。
記入例(架空の数値サンプル)
実際の記入イメージをつかんでいただくため、架空の訪問介護事業所を例に、記入の流れを簡単に紹介します。以下の数値はすべて架空のものであり、実際の記入内容は必ずご自身の実績に基づいて計算してください。事業所の規模によって金額の桁が大きく異なるため、他事業所の数値をそのまま参考にすることは避けてください。
架空の設定:訪問介護事業所A(職員15名規模)
①基本情報入力シートに、指定権者名(例:○○県)、法人名、担当者名を入力する
②別紙様式3-2に、令和7年3月時点の加算区分(例:処遇改善加算Ⅰ)を選択し、月額賃金改善要件Ⅰの充足有無に○を記入する
③別紙様式3-1に、以下を記入する
・(c)受け取った加算総額:仮に年間450万円
・(d)実施した賃金改善の総額(法定福利費の事業主負担増加分を含む):仮に460万円
・(f)令和7年度の年間賃金総額、(j)令和6年度の年間賃金総額、(k)令和6年度の処遇改善加算等総額を、それぞれ賃金台帳から転記する
・(m)加算とは別に独自で実施した賃金改善があれば、その金額と具体的な取り組み内容を記載する
この例のように、(d)実施した賃金改善総額が(c)受け取った加算総額を上回っている(=加算額以上の賃金改善を行っている)ことが要件を満たす基本形です。加算総額をわずかでも下回ると要件不備となるため、集計時には余裕を持った金額で賃金改善を行っておくことをおすすめします。
提出しない・要件を満たさないとどうなるか
実績報告書は義務であり、提出がない場合や、加算の算定要件を満たしていないことが判明した場合には、不正請求として全額返還となることがあります。「今年は忙しくて後回しにしていた」という状態が、思わぬ大きな返還につながるリスクがある点は、経営者として把握しておくべきです。書類整備の状況を含めた監査リスクの点検には、介護事業デューデリジェンスもご活用いただけます。
よくある間違いTOP5
実績報告書の書き方に関する解説記事等を踏まえると、以下のような不備がよく見られます。
①前年度の様式を使い回してしまう(毎年、様式が更新される場合があるため、必ず該当年度の最新様式を確認)
②加算収入と賃金改善額の金額が一致していない(1円単位での突合が必要)
③対象職員の範囲が、当初提出した計画書の内容とずれている
④職場環境等要件の記載漏れ・実施記録の不備
⑤担当者の異動や繁忙期が重なり、提出期限そのものを失念してしまう
職員の「納得感」が実績報告の負担を左右する
実績報告書の作成そのものより厄介なのが、職員側が処遇改善加算を「受け取っている実感」を持てていないケースです。職員が「自分は処遇改善加算の恩恵を受けていない」と感じてしまうと、行政への通報につながることがあります。通報が入ると、事業所側は追加の資料提出や根拠資料の準備を求められ、実績報告そのものよりもはるかに大きな負担が発生します。
これを防ぐには、分かりやすい社内制度・計算方式を整えておくことが何より重要です。「どういう基準で、誰に、いくら配分されているか」を職員が理解できる形にしておけば、通報リスクが下がるだけでなく、実績報告書の作成自体もスムーズになります。社内の計算方式が明確であれば、そのまま報告書の数値に転記しやすくなるためです。
提出前のセルフチェックリスト
提出前に、以下の5点を確認することをおすすめします。
□ 該当年度の最新様式を使っているか
□ 法人名・事業所名・事業所番号に誤りがないか
□ 計画書の対象事業所・対象職員と、実績報告書の内容が一致しているか
□ 加算収入と賃金改善額(社会保険料の事業主負担増加分を含む)が一致しているか
□ 提出方法・提出期限を、自事業所の管轄自治体の最新案内で再確認したか
処遇改善加算の配分は「経営戦略」そのもの
処遇改善加算をどう配分するかは、単なる事務処理ではありません。採用力・求人力、そして職員のモチベーションや評価制度に直結する、重要な経営判断です。
上手に配分すれば、採用市場において待遇面での優位性を打ち出せ、求人力の向上につながります。評価制度にうまく組み込むことができれば、頑張った職員を正当に評価し、モチベーションアップに直結させることもできます。逆に、配分方法を人任せにしたり、その場しのぎで決めてしまうと、こうしたプラスの効果を得られないばかりか、前述の「納得感の欠如」による通報リスクにもつながりかねません。
また、実績報告書を正しく提出できていても、そもそもの配分方法(月次払いと賞与払いの按分、社会保険料の事業主負担分の扱いなど)を誤っていると、加算要件を満たしていないと判断されるリスクもあります。配分方法の実務的な論点は、「処遇改善加算、月次と賞与どちらで払う?配分方法の実務Q&A4選」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
処遇改善加算は制度改定も多く、区分の見直しや新たな要件が加わることもあります。もっとも、制度のルール自体は厚生労働省や自治体から分かりやすい情報が数多く公表されており、書き方だけであれば社労士等の専門家に相談すれば足りるケースがほとんどです。一方で、「その加算をどう配分すれば採用力や職員のモチベーションにつながるか」という戦略の部分は、制度知識だけでは決められません。配分の戦略設計でお悩みの場合は、評価制度・経営コンサルタントとしてお気軽にご相談ください。
参考
・介護職員等処遇改善加算の各種申請(令和7年度)|埼玉県
・令和7年度 福祉・介護職員等処遇改善加算の実績報告について|大阪市
・令和7年度 介護職員等処遇改善加算等の実績報告書の提出について|石井町
・介護職員の処遇改善:加算の申請方法・申請様式|厚生労働省
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。提出期限・提出方法は自治体・事業所の状況により異なる場合がありますので、必ず管轄の自治体・国保連合会等の最新の公式情報をご確認ください。