2026年度の最低賃金改定の目安が固まりました。全産業の賃金水準が底上げされる中、介護業界は「公定価格」という構造上、他業種のように人件費の上昇分を利用料に転嫁できません。今回は、最低賃金改定が介護施設の経営にどのような影響を与えるのか、処遇改善加算の実態や人材獲得競争の最新データを踏まえて整理します。

2026年度最低賃金、+55円・4.9%の引き上げ

2026年度の最低賃金額改定の目安は、全国加重平均で1,176円となりました。現行の1,121円から55円の引き上げで、引き上げ率は4.9%です。都道府県をA・B・Cの3ランクに分けて示される目安のうち、2026年度はAランク(6都府県)が54円、B・Cランクが56円という結果になっています(出典:日本経済新聞、2026年7月28日)。なお引き上げ額・率ともに6年ぶりに前年度を下回っており、政府目標(全国平均1,500円)からはやや後退した「現実路線」とも報じられています。

コンサルタントとして押さえておきたいのは、この目安はあくまで「目安」であり、実際の地域別最低賃金は各都道府県の地方最低賃金審議会で確定し、例年10月頃に発効するという点です。自事業所が指定を受けている都道府県の確定額を、必ず公式発表で確認してください。

処遇改善加算は上限でも6.3%、新たな対象拡大分は3.3%

最低賃金が上がる一方で、介護業界には「処遇改善加算」という賃上げの原資があります。しかし、この原資だけで最低賃金の上昇分をカバーできるかというと、慎重に見る必要があります。

令和8年度の介護報酬改定では、処遇改善加算の仕組みが拡充され、条件をすべて満たした場合の理論上の上限は月1.9万円(6.3%)まで積み増せる設計になっています。一方で、今回新たに対象が介護職員以外の介護従事者全体にも広げられた措置については、月1万円(3.3%)にとどまっています。

コンサルタントとして強調したいのは、6.3%という上限は「条件をすべて満たした場合の理論値」であり、すべての事業所がこの水準まで到達できるわけではないという点です。特に新たに対象拡大された介護従事者(事務職員等)向けの3.3%は、最低賃金の上昇率4.9%を下回っています。処遇改善加算をどう配分するかという実務の論点は、「処遇改善加算、月次と賞与どちらで払う?」もあわせてご参照ください。

最低賃金が上がれば、他業種の給与相場も底上げされる

ここで見落としてはいけないのが、最低賃金の上昇は介護業界だけの問題ではないという点です。最低賃金が上がれば、他業種の時給・給与水準も連動して底上げされます。資格や専門知識を必要としない仕事であっても、最低賃金の引き上げに合わせて時給が見直されるためです。

つまり、介護施設が処遇改善加算等で賃金を引き上げたとしても、それは「介護業界内での相対的な立ち位置の改善」を保証するものではありません。他業種の賃金も同時に上がっている以上、介護の給与水準が見劣りしない状態を維持し続けることが、これまで以上に難しくなっています。

介護の人材獲得競争は、これまで以上に厳しい

このことは、統計にもはっきりと表れています。厚生労働省の統計によれば、介護サービス職業従事者の有効求人倍率は3.88倍(令和5年時点)で、全職業平均の1.15倍を大きく上回っています。求人を出しても、他の職種の3倍以上の"競争率"で人を奪い合っている状態です。

また、厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によれば、介護職員の平均月給は31.4万円で、全産業平均(39.6万円)との差は8.2万円です。介護職員の伸び率(前年比+3.6%)は全産業平均の伸び率(+2.6%)を上回っており、差が縮まる方向にはあるものの、絶対水準のギャップは依然として大きいのが実情です。

商圏内の他業種の時給を確認していますか

ここで経営者に確認していただきたい、実務的なチェックポイントがあります。それは、自施設の商圏範囲内で、他業種の時給が実際どれくらいなのかということです。

求人サイトや折込チラシ等で、近隣のコンビニ・小売・飲食・軽作業・警備といった、資格を問わない仕事の時給を定期的に確認しているでしょうか。そのうえで、自施設の時給が、それらの仕事とどれだけの差を保てているかを点検してください。特に有資格者(介護福祉士等)を雇用している場合、その専門性・資格に対して、無資格でもできる仕事との賃金差が、本人が「納得して働き続けられる」水準になっているかどうかは、離職防止の観点で極めて重要な確認事項です。

コンサルタントとして付け加えると、この賃金差は一度確認して終わりではありません。最低賃金は毎年改定される以上、少なくとも年に一度は商圏内の相場を洗い直す仕組みとして定例化しておくことをお勧めします。

歯を食いしばって上げるしかない。それでも経営は悪化する

ここまでの内容を踏まえると、結論はシンプルです。介護施設は、歯を食いしばってでも給与を引き上げざるを得ません。最低賃金という法的な下限が上がる以上、これは選択の余地がある話ではなく、対応しなければ人材が採用できず、事業の継続自体が難しくなります。

一方で、介護報酬は公定価格であり、他業種のように人件費の上昇分を利用料に転嫁することができません。給与を上げれば、その分そのまま収支が圧迫されます。次期介護報酬改定は令和9年度(2027年度)に予定されており、それまでの間、介護報酬は据え置かれたまま人件費だけが上昇し続ける構造です。率直に言えば、この構造が続く限り、多くの介護施設で経営は悪化します。

唯一の対応策は、業務効率化

この構造的な収支圧迫に対して、事業者側が取れる現実的な打ち手は限られています。介護報酬という収入側を自力で増やすことはできない以上、残された道は、限られた人員・時間で成果を上げるための業務効率化です。

配薬・記録・送迎ルート・シフト管理など、介護施設の業務には、まだ効率化の余地が残っている領域が数多くあります。業務効率化の具体的な進め方については、「介護施設の業務改善、完全ガイド」で15項目にわたって詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

まとめ

2026年度の最低賃金改定は、全国加重平均で+4.9%という、介護業界にとって軽視できない上昇率です。処遇改善加算の拡充だけでは原資として十分とは言えず、他業種の賃金も同時に上がる以上、介護の人材獲得競争は今後さらに厳しくなることが見込まれます。

自施設の商圏内の賃金相場を定期的に確認し、有資格者が納得して働き続けられる賃金差を維持すること。そして、報酬という収入が増えない中で経営を維持するために、業務効率化に本気で取り組むこと。この2つが、経営者に求められる現実的な対応だと考えています。

賃金戦略・業務効率化を含めた経営体制の見直しについてお悩みの場合は、経営コンサルタントとしてお気軽にご相談ください。

参考

最低賃金の全国平均1176円に 26年度目安、55円引き上げ|日本経済新聞(2026年7月28日)
令和8年度の介護報酬改定で「処遇改善加算」が拡充!変更点をわかりやすく解説|かいごGarden
介護業界の人手不足データ徹底解析|有効求人倍率・統計から見る深刻度と対策|ORDEN COMPASS
令和7年賃金構造基本統計調査を基に介護職員の賃金の推移を公表|老施協デジタル

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。最低賃金の確定額は都道府県ごとに異なり、例年10月頃に発効します。必ず自事業所が指定を受けている都道府県の最新の公式発表をご確認ください。