介護施設にとって、薬局は「処方薬を届けてくれるだけの取引先」ではありません。使い方次第で、職員の業務負担を大きく減らし、服薬事故のリスクも下げてくれる、心強い外部パートナーになります。一方で令和8年、施設が薬局から金品や什器等の提供を受けることを明確に禁止する規制強化が周知されました。今こそ「薬局をどう使い倒すか」を、"モノ・カネ"ではなく"専門性"を借りるという発想で考え直すタイミングです。
大前提:薬局は「近くにある」だけでは足りない
施設が薬局と付き合う上での大前提として、まず押さえておきたいのは「近さ」は必要条件であって十分条件ではない、ということです。数年前までは、施設への訪問対応や在宅対応を積極的に行っている薬局はそう多くありませんでした。しかし当社の実感では、この数年で在宅対応薬局は大きく増えています。
実際、2023年度の厚生労働科学研究では、在宅患者訪問薬剤管理指導料の届出をしている薬局のうち、実際に指導等を行っていたのは約6割にとどまるという調査結果も報告されています(出典:薬事日報)。「届け出ているかどうか」と「実際にどこまで、どれくらいのスピードで対応してくれるか」はまったく別の話であり、薬局によって対応力に大きな差があるのが実情です。
今お付き合いしている薬局の対応に少しでも違和感があるなら、我慢して使い続けるのではなく、積極的に切り替えを検討したほうがよいというのが、施設運営者としての実感です。
コンサルタントとしてお伝えしたいのは、「薬局は一度契約したら変えにくい」という思い込みを、まず捨てていただきたいということです。処方箋の応需先は施設側に選択権があります。定期的に「今の対応で本当に十分か」を点検する仕組みを持つことが、経営判断として重要です。
実際の連携フロー:処方箋はFAXとLINEで、当日中に届く
具体的な運用イメージとして、当社の施設で実際に行っているフローを紹介します。処方箋は、ご家族から施設が受け取ったものを薬局へFAXする場合と、医療機関から直接薬局へFAXしてもらう場合があります。加えて、当社ではLINEで処方箋の写真を送ることも多くなっています。
対応の良い薬局は、夕方にFAXやLINEで連絡しても、その日の夕食後の服薬に間に合うように届けてくれます。この「当日中に、しかも夕方の連絡でも間に合わせてくれる」スピード感があるかどうかは、施設運営の現場では非常に大きな差になります。
コンサルタントとしてのアドバイスは、「連絡手段を薬局の都合に合わせる」のではなく、「施設側が普段使っているツール(LINE等)に、薬局側がどこまで柔軟に合わせてくれるか」を確認することです。これも薬局選定の実務的な判断基準になります。
一包化がもたらす、職員の"時間"という経営資源の解放
一包化(服用のタイミングごとに薬をまとめて個包装してもらうこと)には、大きく2つのメリットがあります。一つは誤薬防止、もう一つは分かりやすさです。そして経営的に見て何より大きいのは、職員が薬の管理にかける時間が大幅に減るという点です。
一包化されていない状態では、職員が処方薬のシートから一つひとつ薬を取り出し、利用者ごと・服用タイミングごとに仕分ける作業が発生します。この作業は地味ながら現場の時間を確実に奪い、かつ誤薬のリスクも高めます。一包化に丁寧に対応してくれる薬局と組むことは、経営的には「見えない人件費」を削減していることと同じです。
コンサルタントとしては、一度、現場で服薬管理にかかっている時間を棚卸ししてみることをおすすめします。一人あたりの服薬確認・仕分けにかかる時間を可視化すると、一包化や薬局のサポート品質がどれだけの人件費に相当するかが見えてきます。業務効率化の観点から自施設の業務時間配分を見直したい場合は、介護事業効率化コンサルティングもあわせてご検討ください。誤薬リスクや職員の心理的負担も含めた服薬管理全体の課題については、「誤薬は現場の責任ではない」で詳しく解説しています。
「あるある」な残念な薬局、切り替えを迷う理由にはならない
これは当社の話ではありませんが、業界で"あるある"としてよく耳にするのが、次のような薬局です。
・連絡が取れない
・薬を持ってくるのに時間がかかる
・調剤の間違いが多い
・対応が不親切
・一包化された包みに書いてある情報(薬剤名・用法等)が不足している
こうした薬局と付き合い続けると、そのしわ寄せは結局、現場の職員に行きます。誤薬のリスクを職員が個別にチェックして防ぐことになり、本来薬局が担うべき負担が施設側にそのまま転嫁されてしまうからです。
コンサルタントとして強調したいのは、「今の薬局に不満はあるが、変えるのが面倒」という心理的なハードルこそが、実は一番のコストになっているケースが多いということです。薬局の比較検討・切り替えは施設側の正当な経営判断であり、遠慮する必要はありません。
令和8年、薬局からの"金品提供"は明確に禁止された
ここで、薬局を選ぶ・付き合う上で必ず押さえておくべき最新の制度動向を共有します。厚生労働省は令和8年6月23日付の事務連絡で、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第2項に規定する「経済上の利益の提供による誘引の禁止」について、高齢者施設等(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)への適用の考え方を整理しました。この内容は、令和8年7月23日付の「介護保険最新情報Vol.1528」として、都道府県・市町村の介護保険担当部局にも周知されています。
背景にあるのは、一部の高齢者施設が、入所者の保険調剤を薬局に回す見返りとして、薬局に金品等の提供を要求していた事例が報告されたことです。今回の整理により、以下のような行為が「経済上の利益の提供」に該当することが明確化されました。
・配薬カートや調剤棚等、施設に備え付ける什器を薬局が無償または安価で提供すること
・施設が利用する配薬支援システムや見守りシステムの導入・利用費用を、薬局が負担すること
一方で、患者個別に用意する服薬カレンダーや服薬ボックス等を、薬剤師が服薬管理指導業務の一環として必要と判断して手配することは、この規制の対象外とされています。なお、令和8年6月23日時点で既に薬局が継続的に費用負担している行為については、令和9年5月31日までは違反とみなさない経過措置(猶予期間)が設けられています。
コンサルタントとして今回の規制強化をどう捉えるべきか。これは「施設側の実入りが減る」というネガティブな話ではなく、"モノやカネ"に依存した関係から、"専門性"に基づいた本来あるべき関係へ転換する良いタイミングだと考えています。行政対応・コンプライアンスの観点で自施設の運営体制を点検したい場合は、介護保険監査の対策Q&Aもあわせてご参照ください。
コンサルとしての結論:薬局を「モノ」ではなく「人」で選ぶ
金銭や物品の要求は、今回の規制強化で明確に禁止されました。そして、そもそもそれは良くないことです。施設経営者が本当に薬局に求めるべきは、什器やシステムといった"モノ"ではありません。業務におけるサポートとして、薬剤師が持つプロの知識とスキルを、施設の中でどれだけ活かしてもらえるか、この一点に尽きます。
服薬管理、疑義照会(処方内容への確認)の代行、緊急時の相談対応、多職種連携の場への参加——こうした「専門性による支援」を、施設運営のパートナーとして提供してくれる薬局を探すこと。これこそが、これからの時代の薬局選びの本質だと考えています。
薬局選び・切り替えのチェックリスト
ここまでの内容を踏まえ、薬局を新たに選ぶ・見直す際に確認しておきたいポイントをチェックリストにまとめました。
□ 施設から近い、または訪問(在宅)対応をしてくれるか
□ 処方箋を電話・FAX・LINE等、施設側が使いやすい手段で柔軟に受け付けてくれるか
□ 夕方の連絡でも、その日の夕食後の服薬に間に合う対応スピードがあるか
□ 一包化に対応しており、薬剤名・用法・写真等、包装の表示情報が十分か
□ 休日・夜間・急な処方変更等、緊急時に連絡が取れる体制があるか
□ 服薬状況・副作用・残薬等について、施設側へ定期的にフィードバックしてくれるか
□ ケアカンファレンス等、多職種連携の場に参加する姿勢があるか
□ 医師への疑義照会など、処方内容の確認をスムーズに代行してくれるか
□ 什器やシステムの無償提供等、経済上の利益提供を持ちかけてこない、法令遵守の姿勢があるか
□ 「変えるのが面倒」という理由だけで、対応に不満のある薬局を使い続けていないか
すべてを満点で満たす薬局は多くありません。それでも、このチェックリストを定期的に自施設に当てはめてみることで、「今の薬局との関係が、施設運営にとって本当にプラスになっているか」を客観的に見直すきっかけになります。
まとめ:薬局は"取引先"ではなく"外部パートナー"
薬局を「処方薬を届けてくれるだけの存在」として捉えていると、その専門性の多くを活かしきれないまま終わってしまいます。一包化による誤薬防止や職員の負担軽減、緊急時の相談対応など、薬局・薬剤師が提供できる価値は決して小さくありません。
令和8年の規制強化により、"モノやカネ"で関係を保つやり方は明確に否定されました。だからこそ、施設側から「専門性を借りる」という発想で積極的に薬局を使い倒し、対応が芳しくない薬局とは遠慮なく見直していく——これが、これからの介護施設経営に求められる薬局との付き合い方だと考えています。
薬局との連携体制を含めた業務フローの見直しや、職員の業務負担軽減についてお悩みの場合は、経営コンサルタントとしてお気軽にご相談ください。
参考
・介護保険最新情報Vol.1528「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第2項に規定する経済上の利益の提供による誘引の禁止について」|厚生労働省老健局(令和8年7月23日)
・薬局の介護施設への利益提供にメス 厚労省、金品供与など誘引の禁止ルール明確化|介護ニュースJoint
・在宅実施薬局は届出の6割‐訪問指導増加も応需と差|薬事日報ウェブサイト
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。薬局に関する規制の詳細は改正・運用状況により変わる可能性がありますので、必ず最新の公式情報をご確認ください。また、自施設の状況に応じた薬局選定・連携体制の見直しについては、専門家にご相談のうえ判断してください。